「2018年の世界経済と市場見通し」中間アップデート

31 August 2018 | マーケット・経済

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昨年末、バンガードは2018年以降の世界経済と市場見通しを発表しましたが、 それから短期間に様々なことが起こりました。米国議会は減税案を通過させ、原油やその他の商品価格は上昇し、米国はイラン核合意から離脱、北朝鮮との非核化をめぐる協議は断続的に進行し、ヨーロッパにおける政治リスクは増大、世界各国間における貿易の緊張は高まっています。

バンガード・シニア・エコノミスト、アンドリュー・パターソンに、これらを背景にバンガードの見通しはどのような進展を見せたか、話を聞きました。

まず、金利についてお聞きします。かなり最近まで金融市場は、米連邦準備制度理事会(FRB)が予定していた政策金利引き上げがすべて実行されるとは確信していませんでした。しかし今では、FRBよりもむしろ金融市場のほうが、2018年中に計4回の利上げが行われると確信しているようです。この変化をもたらしたのは何なのか、またバンガードの見解はどのようなものでしょうか。

12月に行われたインフレ期待の修正が、数あるリスクの中でも現状では最大のリスクだと私たちは指摘していましたが、予想していたよりも早く影響が現れています。私たちの懸念は、米国のインフレと、それを抑制しようとするFRBの措置に集中しました。これは、他の先進国と比較した際の、景気循環における米国の位置づけによるものです。例えば、ヨーロッパ諸国や日本では、欧州中央銀行や日本銀行が今後数年の間に利上げに踏み切るほどのインフレは確認されていません。

私たちの見解の背景について少しお話します――市場は、実際には発生しなかったものの、金融恐慌を契機とし景気循環の反発が生じる、という数年にわたる予想から、経済成長もインフレも、さえない見通しに落ち着いていました。グローバリゼーションや人口構成、テクノロジーといった構造的な要因が、長期成長とインフレの鈍化に結びつくということには同意しています。しかしこの見解に対する市場全般の受け入れは、インフレ期待の短期的な急上昇の可能性を見落としていました。


1月末の段階で、米国景気指標の中には、まさにこのインフレ高進を示唆するものもありました。市場はFRBによる、より積極的なペースでの金融引き締めに価格決定で反応しました。6月の会合でFRBは、2018年後半において、1度だけではなく2度の利上げを行う予定であることを示唆しました。これは2018年において、これまでの予想よりも、経済成長はやや加速、失業率はやや低下、インフレは高めに推移するであろうという、FRBの予測に対し調整した結果です。

2018年終わりには、米国コア個人消費支出価格指数(コアPCE価格指数)は2%をわずかに上回る程度、また労働市場の強さは持続する、という現時点での予測を考慮すると、FRBは実際に年内にあと2回、計4回の利上げを行うと私たちは予想しています。金利はこのサイクルの終わりで2.75-3%、そして2019年には2度の利上げが行われるだろう、という私たちの見解は変わっていません。

バンガードの雇用見通しについて、詳しくお話していただけますか?

ロボット工学、人工知能やデジタル技術が人間に取って代わるだろうと言われ続けていますが、それでも米国をはじめ、世界各国で完全雇用状態にあります。

私たちは少し前からこの難問に取り組んでおり、まもなく新しい報告書『仕事の未来』を発表する予定です。報告書では、このトピックの分析を発展させています。

私たちは、将来大量失業になると予見する立場はとっていません。自動車製造業のように、反復的な作業が中心となる仕事は自動化されるかもしれませんが、今から10年後にはもっと仕事があると信じています。そしてそれは、同じことを繰り返し実行することではなく、もっと良質の仕事となるでしょう。創造的に思考し問題解決を図ることに、より長い時間を費やすことになります。私たちはこのような活動を「人間独自の」課題と呼んでいます。

これは逆説的な見解になりますが、今後10年間、人間独自の課題に焦点を置いた仕事の量が増えるにつれ、自動化レベルの上昇と労働力不足の両方に直面することになりそうです。ロボットの数が増え、それでもなお人間の労働者は不足するでしょう。

今年初めに投資家が注目していたインフレはニュースの見出しから消え、代わりに貿易摩擦の拡大が取りざたされるようになりました。関税はバンガードの経済見通しにどのような影響を与えるでしょうか、また投資家は自身のポートフォリオを守るために何ができるでしょうか?

関税とその影響については、昨年度の「グローバル・マクロ・マターズ」シリーズの『Trade Status: It's complicated』で研究報告を行っています。もし貿易摩擦が様々なレベルに拡大すればどうなるかを推定したところ、関税のわずかな引き上げが米国経済に短期的にもたらす利益は、取るに足りないレベルのものであることがわかりました。しかし利益は早々に消失し、また報復関税と市場ボラティリティの発生により、相殺される可能性があります。その結果、消費者物価の上昇と貿易活動の減少、ひいては経済成長の低下といった、どの方面においても損失ばかりの筋書きとなります。

貿易についての発言は、今後しばらくの間、特に不確実性にネガティブな反応を示しがちな株式に対して、ボラティリティの発生源であることは変わらないと考えられます。2019年、あるいは2020年を迎えるまでに、米国とカナダおよびメキシコ間での貿易協定の再交渉が終了すると予想する識者はほとんどいません。米国対ヨーロッパおよび中国についても、貿易関係の再交渉は、長く険しい道のりだと予想しています。

その中でも明るい見通しは、通貨価値や中央銀行の政策と比べて、貿易紛争は世界経済における重要度が低いものとして、市場は適切に受け止めることができる前例があるという点です。

米国の政策決定と貿易相手国の反応を注意深く監視することは、賢明だと言えます。しかし、それに反応してポートフォリオに戦術的、短期的な変更を加えないよう、私たちは注意を促したいと思っています。

2017年に米国株式が20%以上上昇した(CRSP USトータル・マーケット・インデックスによる)時、米国株式は割高であると感じた投資家もいたでしょう。その後、調整があり、そして反発がありました。そのことは米国内外でのバリュエーションにどのような影響を及ぼしたでしょうか?

どのバリュエーションも、株価が短期的にどう推移するかを正確に伝えるものではありません。また長期的にも、予想の助けとなるようなバリュエーションはほとんどありません。例外は、経済学者ロバート・シラーにより開発された景気循環調整後の株価収益率(PER)、一般にCAPEレシオと呼ばれている指標です。この指標はS&P500の、単年度の利益ではなく過去10年間の平均利益を用いて算出したもので、長期的な平均値は17ですが、現時点ではその2倍近い32という数値となっています。

CAPEレシオは長期的な平均値に回帰することを前提としており、CAPEレシオが高い場合は、その後10年間の株式リターンが平均値以下となることが示唆されています(CAPEレシオが低い場合はその逆)。

しかし1985年ごろから、CAPEレシオの予測力は衰え始めました。その後数十年にわたり、株式リターンは常に高いにもかかわらず、CAPEレシオは過去の平均値以上にとどまっているのです。

CAPEレシオの改善に向けた金融業界での調査の一環として、経済状況に関わらずCAPEレシオは長期的な平均値に回帰する、という標準的な前提を再検討しました。そして、現在の低金利とインフレ期待を考慮してCAPEレシオを調整し、その予測精度を大幅に向上させました。

そこで、ご質問へ戻りましょう。今年に入って間もなくボラティリティが上昇したにもかかわらず、現在の「フェアバリュー」CAPEレシオは、米国株式バリュエーションは高いとはいうものの、「バブル」と呼べる範囲には達していません。

私たちが改良したフェアバリューCAPEレシオは、米国を除く先進国市場が合理的なバリューの範囲内にあることも示しています。これは地域的な分散投資を支持するさらなる論点となります。

新興市場株式となると話は違ってきます。これらは2018年以前には懸念事項でした。米国株式に比べると割安でしたが(これは通常の傾向で、高リスクのため投資対象となるには高利回りの必要があるからです)、にもかかわらず、私たちの推定によると、これらの株式はフェアバリューを上回る価格で取引されていました。

しかしそれ以降、様々な逆風――保護貿易主義の懸念、米ドルの強さや米国における金利の上昇など――が、これらの証券に対する需要を鈍らせ、そのバリュエーションは私たちがフェアバリューとみなす値に近づいてきています。

バンガードが発表した過去数年間の見通しでは、市場リターンはあまり楽観的なものではありませんでした。昨年にはこう述べています。「2018年以降のバンガードの投資見通しは、より高リスク低リターンのものとなるでしょう」。このバンガードの見方に変更はあるでしょうか?

端的に言って、残念ながら答えはノーです。

近年の大規模な金融緩和政策の時代は、終わりを迎えようとしています。世界金融危機以来、世界中の中央銀行上層部は、企業や家計の消費を誘うため、資産購入により徐々に市場を刺激し、リスクプレミアムを抑え、高リスク資産価格の上昇をはかってきました。そして、今がその対価を支払うときです。今後リターンが低迷するのは、景気刺激対策の巻き戻しと、先に述べたように、やや上昇気味にあったバリュエーションが逆戻りする結果です。

株式リターンは、特に米国株は低迷する可能性が高いでしょう。グローバル株式については、年率リターンは前回の不況以降の8年半で約15%であったのに対し、4.5%から6.5%の間にとどまるでしょう。ただし、市場がそれよりよくなる年や、あるいはリターンがマイナスになる年がないと言っているわけではありません。

では、グローバル株式のリターンは4.5%から6.5%の範囲とのことですね。これはインフレ率を考慮した実質リターンの数値でしょうか?

これは名目リターン、つまりインフレ率を考慮する前の数値です。

しかしありがたいことに、インフレ率は1990年代の3%から4%よりも低め、そして1980年代と比べるとずっと低い可能性が高いです。

私たちの基本的見通しでは、今後のインフレ率は2%よりやや低めとなっています。つまり簡単な計算をすると、グローバル株式の年率リターンは、インフレ率考慮後で2.5%から4.5%になります。

今ご指摘いただいたように、このリターン予想は、投資家が近年見慣れてきた数値からは程遠いものです。投資家はどうするべきでしょうか?

私たちのリターン予想が低いことは確かです。そして、それは聞きたくない話だと思いますが、情報に基づいた資産配分の決定をしていただくためには、極めて率直にお伝えすることが大事だと考えています。

好況のときも不況のときもうまくやり遂げられるような、合理的な投資プランをすでにお持ちであれば、リターンが低迷する見通しであっても、そのプランに取り組み続ける規律と視点を持てるでしょう。

またこれはおそらく、近年得られていたのと同じレベルのリターンを求め、誘惑に負けて高リターンの投資に手を出すよりも、より良い投資結果を生むことにつながるでしょう。より高利回りの投資は、状況によっては高リターンを生むかもしれません。しかし、もっと確実に言えるのは、それらは高リスクであるということです。

市場リターンが低迷する見通しに対し、できることはありません。極端な新しい投資戦略はもってのほかです。いつものように、投資目標を達成する機会を増やすための、貯蓄額を増やす、低い投資コストを維持するといった、ご自身でコントロールできることに注力することが重要です。




ご留意事項

  • すべての投資にはリスクが伴い、投資元金を割り込む可能性があります。
  • 債券には、発行体による支払いが滞ったり、金利上昇や発行体の支払い能力についての否定的な見方により債券価格が下落するリスクがあります。
  • 外国株式や外国債券については、国・地域の変化に起因するリスクや為替変動リスクが伴います。
  • 過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。

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