4%予算とは:退職後は資産の引き出し率より支出の柔軟性が重要です

21 August 2020 | 退職後の生活

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新型コロナウイルスの世界的な流行に端を発した現在の下落相場は、既に退職している人々や近い将来に退職を予定している人々に重要な問題を提起しています。債券投資の歴史的な低利回りと景気の先行き不透明感を踏まえつつ、退職者はこの困難な時期をどう乗り切ればよいでしょうか。また、資産引き出しの”4%ルール”は依然として有効なのでしょうか。

4%ルールは、1994年に初めて提唱されました(以下に詳述します)。このルールは「ガイドライン」のようなものだと私は考えていますが、賞賛される一方で、議論の的にもなってきました。そのルールの分かりやすさから退職者の支持を集め、過去の市場リターンとの整合性が多くの投資アドバイザーや学界から支持されている一方で、このルールをめぐっては様々な議論があり、現在のバリュエーションの高さと低金利を背景に、今後もこのルールが適用できるかを疑問視する声も多くなっています。

4%ルールで注目すべきは、いわゆる「4%予算」です。退職者が「4%をどう使うか」が、「4%の引き出し率か適切かどうか」と同じくらい、あるいはそれ以上に重要と言えます。

4%ルールとは

4%ルールは、退職後の安全な資産引き出し率を計算するために策定されました。

このルールに従えば、退職後の1年目に貯蓄額の4%を取り崩して使うことができます。その後は、インフレ率に合わせて引き出す金額を毎年調整します。このシンプルな計画に従えば、退職後の期間、手元に十分な資金が期待できます。もう少し露骨な言い方をすると、資金が底をつく前に、あなたの命が尽きる可能性が高いということです。

ルール自体は分かりやすいものですが、細かい点に注意が必要です。『ジャーナル・オブ・ファイナンシャル・プランニング』に掲載された1994年の論文でウィリアム・ベンゲン氏が4%ルールを提唱しました。この論文では4%という数字に注目が集まりましたが、彼の結論は次のような重要な前提にもとづいています。

  • 株式への資産配分は50%から75%。ベンゲン氏は過去の市場リターンをもとに、株式への配分がこのレンジから外れているポートフォリオは長続きせず、時にはポートフォリオの持続期間が大幅に短縮されることに気づきました。しかし多くの退職者にとって、資産の半分以上を株式に配分することは簡単ではありません。現在のように、新型コロナウイルスにより不確実性が高まっている状況であれば尚更です。こんな時は過去を振り返ることが役に立つかもしれません。ベンゲン氏の分析には、1929年の株価暴落とその後の大恐慌、第二次世界大戦、ベトナム戦争、1970年代のスタグフレーション、1987年のブラックマンデーが含まれています。
  • ポートフォリオは毎年リバランスする。この点をあえて挙げるのは、実行が困難な場合があるためです。2009年初めに退職した人を例に挙げましょう。2008年に老後の蓄えが30%以上減少するのを目の当たりにしたのですから、ポートフォリオをリバランスして株式の購入額を増やすことは難しく感じるはずです。これと同様のことが現在にも当てはまるかもしれません。しかし、4%ルールに従うのであればリバランスは必要です。
  • 市場リターンは手数料を考慮していない。ベンゲン氏は過去の市場リターンを使用していますが、そのほとんどは投資信託の経費率や顧問料は控除されていません。これは、専門家の力を借りずに低コストのインデックス・ファンドに投資する投資家にとっては妥当な前提と言えるでしょう。しかし、アドバイザーに高額の手数料を支払うファンドに投資する場合、4%ルールが機能しない可能性もあります。

ベンゲン氏は、ほとんどの場合、過去の市場リターンを使用していますが、同氏の分析には将来のリターンに関する予測も含まれていることに留意が必要です。将来の予測期間については、株式リターンを10.3%、債券リターンを5.2%、インフレ率を3%と仮定しており、これが4%に関する議論を引き起こす原因となっています。

4%に関する議論

現在では、4%という水準は高すぎると多くの人が考えています。バリュエーションの高さ(S&P500指数のPER(株価収益率)は足元の相場下落後でも20倍を超えています)と低金利を考えると、市場リターンが過去の平均に達すると期待すべきではないとの主張です。つまり、10.3%の株式リターン、5.2%の債券リターンを期待してはいけないということです。

フィナンシャル・アドバイザーの中には、市場の変動を考慮していないことなどを理由に、4%ルールを信用しない人もいます。しかしベンゲン氏のルールは、実は市場の変動を考慮しており、1994年の論文の大半をこのトピックに費やしています。しかもベンゲン氏は天文学にも興味があることから、1973年から1974年のリセッションを「ビッグ・バン」と呼ぶなど、市場の大幅な調整局面に名前まで付けています。

市場のバリュエーションと金利を考えると、株式と債券のリターンは近い将来、さらに低下することが予想されます(ただし、厳密な時期は私にも分かりません。私は2010年に金利が上昇すると予測していました)。そこで、「4%予算」の考え方と、ベンゲン氏の論文で注目すべき点をご紹介したいと思います。

4%予算

おそらくベンゲン氏は、適正だと確信できる引き出し率は存在しないということを認識し、一時的にでも引き出し率を下げることの利点を以下のように称賛しました。

しかし、長期的に状況を改善するための選択肢は他にもあります。それは、一時的でも良いので資産の引き出し率を下げることです。さほど痛みを伴わずにやりくりできるのであれば、これが最適な解決法かもしれません。この方法を用いれば、左右される要素は、市場の変わりやすいパフォーマンスではなく、自分でコントロールできる支出になるからです。

これに気づいた私は、完璧な引き出し率を考えようとするのではなく、「4%予算」を重視するようになりました。退職者は、退職勘定と課税勘定から毎年引き出す資金の使い方に焦点を当てるべきです。具体的には、4%(あるいはご自身が決めた金額)のうち、どの程度を生活必需品に使い、どの程度を必要ではないが欲しいものに使うかということです。

必要なものと欲しいもの

同じ4%の引き出し率でも内容が異なる場合があるということを認識しておく必要があります。65歳の退職者2人が、4%ルールに従って資金を引き出していると仮定します。表面的には、この2人は全く同じアプローチを取り、リスクとリターンも同じに見えます。

では2人の4%予算を詳しく見てみましょう。1人目の退職者は4%予算がすべて生きていくためだけに必要な額だと仮定します。毎年のインフレ調整後の引き出し額が生活に必要な水準を下回れば、生活を維持することが困難になるでしょう。

一方、2人目の退職者は投資額の3%のみが生活の維持に必要な額だとします。残りの1%は旅行や趣味に充てられます。このような余暇活動は生活の質を高める上で重要ですが、生きていくために必要というわけではありません。

現在の退職者の状況もそれほど変わりません。ベンゲン氏の論文では、引き出し率を3%とすると、株式に50%、債券に50%投資するポートフォリオは少なくとも50年間は維持できることが示されました。これには大恐慌の初期の頃、1937年から1941年の株価大暴落、そして「ビッグ・バン」が含まれています。このように、3%あるいは3.5%の予算で生活できる退職者は、大規模な市場崩壊を乗り越えられる柔軟性がありますが、4%の予算すべてを必要としている退職者は、理論上は生活を維持できなくなります。

実際、年間の引き出し額をわずか5%減額する柔軟性があれば、ポートフォリオに甚大な影響を及ぼすことができます。ベンゲン氏は次のように説明しています。

例として、再び1929年の退職者について考えてみましょう。1930年の終わりに、2年目の引き出しを行おうとした時、市場はすでに1928年末から30%ほど下落しており、その後は状況が一段と悪化しそうでした。もしこの退職者が1930年の引き出し額を5%だけでも減額し、退職後の全期間にわたり5%の減額を続ければ、減額しなかった場合に比べて資産は1949年までに20%増え、遺産として残すことができます。そして30年後に資産は25%増え、時間と共に資産はさらに増加します。

負債

退職前に負債を返済しておくことで、退職者は今年経験しているような相場下落時にも、引き出し額を柔軟に減額することができます。負債のない退職者と、4%予算のうち25%を借金の返済に充てている退職者を想像してみてください。2人とも4%ルールに従っていますが、マーク・トウェインの名言を借りれば、稲妻と蛍ほどの違いがあります。

4%ルールと早期退職

4%予算に関する私の考え方の大半は、FIRE(経済的自立と早期退職を目標とするライフスタイルを啓蒙する)ムーブメントから生まれたものです。FIREムーブメントが盛り上がると、30代や40代で退職する人に4%ルールを適用するのは愚かなことだという指摘が広がりました。中には、FIREムーブメント自体を批判するようになった人もいます。

35歳や40歳で引退する人に4%ルールを適用することの妥当性を問うことは間違っていません。ベンゲン氏によると、退職後の資産ポートフォリオは3%の引き出し率、あるいは3.5%の引き出し率でも、分析を試みたあらゆる市場において、50年間持続しました。しかし、4%の引き出し率ではこれほど長く持続しません。まれにではありますが、4%ルールでは35年ほどしか持続しないケースもありました。

ここでも、4%予算が2つの点で重要です。まず、早期退職者は貯蓄の3%や3.5%で生活できるでしょうか。第2に、彼らは本当に一銭も稼ぐことなく65年間生きていくつもりでしょうか。あるいは、自分の希望するライフスタイルに合った方法で仕事ができるようなスキルを持っているのでしょうか。4%ルールを議論するよりも、これらの質問に答えることのほうが重要です。

パートタイムとはいえ働かなければならない状態を、本当に「引退」と言えるかと疑問に思う人もいるでしょう。少なくとも従来の基準からすると、引退とは言えないと思います。しかし、51歳までにすでに2回引退し、あと3~4回引退したいと考えている者としては、「引退」の文字を入力するだけで引退した気分になれるのです。




ロブ・バーガー

Retire Before Mom and Dad: The Simple Numbers Behind a Lifetime of Financial Freedom.」の著者。証券業界の訴訟弁護士を経て、現在は「Forbes Money Advisor」の副編集長として活躍。趣味は読書やコーディング、トーナメント制のチェスをすること。




ご留意事項

  • すべての投資にはリスクが伴い、投資元金を割り込む可能性があります。
  • ロブ・バーガー氏の見解は必ずしもバンガードの見解ではありません。バンガードの退職後の支出戦略については、From assets to income: A goals-based approach to retirement spending(英語)をご覧ください。
  • バーガー氏はプロの金融執筆者兼ブロガーであり、登録アドバイザーではありません。
  • 税務または財務アドバイザーにご自身の状況について相談されることをお勧めします。

 

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